東京高等裁判所 昭和34年(ラ)869号 決定 1960年2月11日
抗告人 鈴木鷲之助
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人は、「原決定を取り消す。債権者中井克己の本件申立を棄却する。」旨の裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。
債権者である中井克己が本件収去命令の基本とした債務名義で、本件記録に綴ぢられている東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一、七六二号建物収去土地明渡請求控訴事件の判決によれば、抗告人主張のように、中井克己の被控訴人東都工業株式会社に対する本件建物から退去して本件土地の明渡を求めている請求は棄却されているが、中井克己の抗告人に対する本件建物を収去して本件土地の明渡を求める請求は認容されていることを認めることができる。建物の居住者に対して建物の退去を求めることができない以上は、建物を収去する強制執行ができないことは抗告人主張のとおりであるが、それは事実上執行ができなくなるに止まるのみで、建物の居住者が任意に退去することもあるのであるから、建物の居住者に対し建物を退去しその敷地の明渡を求める債務名義がないとの一事で、建物の所有者に対し建物の収去土地明渡の債務名義について、建物の収去命令を求めることができないということにはならない。これに反する抗告人の主張は採用できない。
よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させ、主文のとおり決定する。
(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 土肥原光圀)
抗告理由書
一、原裁判所は、東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一、七六二号建物収去土地明渡請求事件の執行力ある正本に基く、被抗告人の建物収去命令の申請により昭和三四年一一月二〇日別紙物件目録記載の建物収去の決定をなした。
二、然し乍ら右建物は東都工業株式会社が、昭和二一年頃より適法に占有使用している。
三、被抗告人は東都工業株式会社に対して、右建物より退去し、その敷地の明渡を求める訴を提起したが(東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第九四〇二号事件)昭和三〇年八月二七日同社に対する請求棄却の判決がなされ、右判決に対し、被抗告人は控訴を提起したが(東京高等裁判所昭和三二年(ネ)第一、七六二号事件)昭和三二年二月二七日、同社に対する控訴棄却の判決がなされたので、同社は被抗告人に対し、右建物を明渡す義務なく、被控訴人は同社に対し、建物より退去を求めることが出来なくなつた。
四、以上の次第であるから執行裁判所としては建物収去の代替執行の決定をなすにあたり、建物の占有使用者を調査し、第三者である前記会社が建物を占有し、被抗告人がその占有者に対し、建物の明渡を求めることが出来ない以上、抗告人も建物の占有者を退去させて建物を収去することはできないから、被抗告人の建物収去の申請は却下されるべきである。然るに原裁判所は執行吏に対し第三者占有中の建物の収去を抗告人の費用でなすことが出来る旨の授権の決定をなされたので、その是正を求めるために本即時抗告に及んだ次第である。